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前掛けの緒

2016年02月10日

fukuhauchi


今年最初のまとまった「原稿仕事」は、
社史の〈普及版〉のためのものでした。

社史には〈正史〉と〈普及版〉という大きく2パターンがあります。

このうち〈正史〉が、
全編を通じて歴史をある程度網羅的に記述することに
重きをおいているのに対して
〈普及版〉では、
重要なテーマや事項にスポットを当て、
読者の興味を喚起しやすいかたちで提示することを目指します。

資料を読み、お話を伺い、文章にする。

一連の手順に違いはないものの、
目指す形が異なれば、「文章にする」ために求められる
頭の働かせ方は全く別ものなのだと
深く実感し、また苦しんだ数週間でした。


〈正史〉の原稿作成は
たとえるなら太巻きづくりのようなもの。

丁度良く炊きあがったご飯を
しかるべきサイズの海苔の上に広げる。
欠かせない具を中心に
季節やお客様のお好みに合わせてそろえた具もとりあわせて、
包丁を入れた時の断面を考えながら慎重に巻き込んでいく。

調理の段階から「枠組み」は見えていて、
いかに収斂させていくかが問われる――と思っています。


一方の〈普及版〉は、
今の私にとってはさながら海鮮丼です。

丼からこぼれさえしなければ、
基本的に何をどれだけ盛りつけてもいい。
その日仕入れてガラスケースに収めた海鮮を
全て少しずつ乗せることもできる。

けれども、ネタの種類が増えれば増えるほど、
見た目の華やかさとは裏腹に、
それぞれのネタの存在感は弱まってしまう。

まずはその日、一番活きがいいもの、
あるいはお客様が一番好きなネタを立たせることを考える。
もしかすると、ほかにはあとほんの少しの薬味を加えるだけで、
今日できる最高の丼になるかもしれない。

または、主役のネタをより引き立てる脇役がいるならば、
後からちょうど良い量を加えてバランスを見る。

いずれにしても、使う素材が少ない部分、
ひとつひとつに圧倒的な旨味がなければ成り立たない。


太巻きの「収斂」とは全くことなる、
「吟味」の積み重ねがそこにはあるような気がします。


「こうしたらきっと美味しい」が
太巻きでも、海鮮丼でもすぐに閃く料理人になるため、
前掛けを締め直すときだと思っています。


sora



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