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一冊の周辺 ― 『星を撒いた街』

2014年10月27日

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帰りの移動で乗る電車は、
新宿か代々木を21時前に出ると
不思議なほどいつも空いている。
ほかの時間はほぼ混んでいる。

混んでいる時間に新宿を出て、
11駅目くらいで近くの席が空いた。
やっと、という感じではあったし、どちらかといえばまぁ疲れてもいた。

座っていたら、次の駅で
杖をついて片足をひきずった老婦人が乗ってきた。
きれいなひとだった。

どうぞ、と言ってみたら、
まゆげが下がってしまった。

「だって……あれでしょ? もう…電車、混んでて、席、やっと……」

そんなことない、と言ったら
まゆげを下げたまま座ってくれた。

わたし○○で降りるから、そうしたら座ってね、
とも言われた。

傍からわかりにくい不自由を身体に抱えている人は、
わかってもらうことにたぶん苦労している。
ちゃんと認知されているかどうかわからないけれど
そのためのマークもできた。

逆に、と思う。逆にこのおばあさんのような
たいていの人が席を譲るであろうわかりやすさと
相手の状況を察しようとする性格と
正確に察することのできてしまう力とを持っている人にとって、
電車に乗るというのは
いちいち心の痛むことなんだろうな、と思った。

降りたら座ってねと言ってくれているので
そのままそこに立っていたら、
おばあさんはたまにこっちを見てくる。
「あのね、よかったら……」

そのバッグを自分の杖に引っかけろ、と言う。

断ったのは、バッグには本が5冊が入っていて
おばあさんに持たせるくらいなら
いまのまま足元に置いておくほうが気がラクだったからだけれど、
「いいから、私が持つんじゃないから、杖が持つんだから」
と一生懸命な冗談まで言うので、
ちょっとウケてしまって
それでお願いした。

杖にバッグの持ち手をかけた瞬間、
おばあさんがひるんだのがわかったし、
そのあと杖をまっすぐ保つためにおばあさんが必死なのもわかったけれど、
まぁもう仕方がないのでそのままにした。

杖を両手で(私のバッグのせいだ)もつ横顔がきれいだった。


入っていた一冊が『星を撒いた街』だった。
装丁がきれいでジャケ買いしたまま本棚にあって、
あるきっかけで読み始めたところだった。
装丁も佇まいも物語も文体も美しいその本が、
杖にかかったあのバッグに入ってるんだなと思うと
重くて申し訳ないことだけれどうれしかった。


『星を撒いた街』 上林暁 (夏葉社)



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