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一冊の周辺 ― 『猫のよびごえ』

2014年08月24日

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一緒に暮らす動物とは、たいてい道ばたで会った。

高校の春休み中、遊んで帰ってきたら
家のなかに籐の大きなかごがあって
そのなかに白い犬がいた。

小学生だった妹と、隣に住んでいた女の子が、
いつも行く公園で捨てられた5兄弟を見つけて
そこから一匹ずつを抱っこして帰ってきたそうで、
そのまま犬は私たちの家族になった。

じつは3日後に旅行に行くことになっていて、
いきなりお隣さんに預けて出かけてしまったけれど
犬は帰ってきた私たちを見て
しっぽを振ってくれた。

次の年の夏休みには
牛乳を買いに近所のセブンイレブンに出かけて
猫を拾った。

行き道で気になった「ピィ……」という声が、
帰り道ではもっと大きく聞こえた。
古いアパートの錆びた階段の下に小さな段ボール箱があって、
ふたをあけたら手のひらより小さな子猫がいた。

祖父が亡くなって一人暮らしになったばかりの祖母に
家族全員で頼み込んで、もらってもらった。

目が開いていない時期からスポイトでごはんをあげて育てたのに、
祖母と暮らし始めてから、
猫は祖母の言うことしか絶対に聞かなかった。

誰が呼んでも知らんぷりをして、触ろうものなら毛を逆立てるくせに
祖母が呼ぶと冗談みたいな猫なで声でおなかを見せた。

祖母にとって面倒な訪問客が来るとシャーシャー怒って邪魔をして、
大切なお客さんが来ると“脇に控えて”待機した。

一度、台風の夜に、祖母が目覚めて玄関を見ると
上がり框に座って外の嵐をじっと見つめていたそうで、
「朝になってあたしが起きたらコトンと寝ちゃってね」
と祖母は言った。
猫は祖母というお姫様のナイトだった。

家族だった犬も、祖母のナイトも、もういない。

そして去年の夏、
帰ってきた夫のかばんのなかに子猫がいた。
会社のガレージに、にゃあ…と鳴きながらやってきたらしいやせっぽちは
夫と一緒に車に乗ってうちへやって来た。

人と人がそうであるように、
動物との出会いも
偶然が自然だというふうに思っている。

会ってしまったら、
相手は命だからこちらに判断する余地はないし、
あちらにも飼い主を選ぶ権利はない。

だから、犬がいいとか猫がいいとか、
種類がどうとか大きさがどうとか、
選ぶのがおかしいとまでは思わないけれど、
本当はそういうものではない気がしている。

まーほかに選択肢もないからいいやよろしくね、
という感じの出会いかたが本来だ、というふうに。


動物と人との距離感が、
知るかぎり最高に自然で最高におかしい『猫のよびごえ』という本は、
それでいて命とのむきあいかたを
照れながらまじめに問いかけてくる。


『猫のよびごえ』 町田康 (講談社)



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