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一冊の周辺 ― 『家族』

2014年08月07日

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長く地元に住んでいた父方の伯母が
世田谷のマンションに引っ越したのは
実家を取り壊すことになったからだった。

遊びにきてね、と伯母は言ったけれど
3年経ってまだ遊びに行っていない。

ただ、伯母のほうがたまに地元に戻ってくるので
それでひさしぶりに会った。

親戚に「化け物トリオ」というのがいる。
実年齢よりも20歳くらい若く見られるらしい人たちのことで、
10歳若く見られるのは素敵だけれど
20歳になるとちょっともう、
見かけ以外のなにかが足りてないんじゃないのか……とも思うけれど、
化け物たちはまんざらでもなさそうだったりする。

トリオのひとりがその伯母で、
ひさしぶりに見てもやっぱり異様に若かった。
今年で72になるはずだけれど、50代半ばくらいにしか見えなかった。

伯母は早い時期に兄をふたり失くし、
大学教授の秘書の仕事をしながら
両親とずっと暮らしてきた。
終戦の焼け野原を東京から千葉まで歩いて帰った、
という記憶がある世代の人だし、
その人生には人並み以上の苦労があっただろうと思うのだけれど、
陰が見えない。

それはたぶん伯母が派手できれいだからで、
キラキラしてればたいていのことは隠れる、みたいな人生観が
伯母にはあるような気がする。

実際、誰かが入院したり別れたり亡くなったり
そういうネガティブな出来事のときも、伯母はきれいだったし明るかった。
そんな伯母と、末っ子の父は、
親戚たちが言うには、6人きょうだいのなかで
いちばんよく似ていていちばん仲が良かった。


『家族』という小説が描き出すように、家族には、
それぞれの立つ場所からしか見えない景色があって、
それぞれにしかわからない思いがある。

一人称が、つまり語り手が持ち回りで章ごとに変わっていくことで、
互いには見えないはずの景色と思いを
一冊を読み通すことで一望できてしまうこの小説は、暗くて重い。
でも、確かな温かさでそれぞれを描き、家族そのものを描く。


世田谷に帰る伯母を送りながら皆で話をしていたら
「忙しいんでしょ? またしばらく会えないわね」と
伯母が私を見て言った。

いろいろと伯母の言うとおりだったけれど
伯母がさみしそうなことを言うのがいやで
「……全然。いつでも会えるって」
と答えたら伯母は
「そういう言いかた、お父さんにそっくりね」と
おかしそうに笑った。


『家族』 南木佳士 (文春文庫)



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