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一冊の周辺 ― 『くまのパディントン』

2014年07月22日

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ヨーロッパに一度だけ行ったことがあって、
それは1泊3日のロンドン出張だった。

何人ものOBの物語をもとにした会社案内を作っていた時で、
打ち合わせの席でクライアント側のトップから
「ひとりロンドンにいるんです」と聞いて、
「へぇぇ」と思っていたら
メンバーのひとりが私を見て「ねぇ行ってくれば?」と言った。

それで、3日後に
ロンドンに向かう飛行機に乗っていた。
私英語しゃべれませんよ、という忠告(?)は、無視された。

ヒースロー空港の税関で、
なんとかのひとつ覚えみたいな「sightseeing」が言いたくなかった。
実際に仕事だったのだから仕事だと思われたい気持ちもあったし、
でも仕事の場合なんといえばいいのか覚えてきていなくて
“work…”とつぶやいたら、
少しだけ「怪しいな」という顔をされた。
疑いの表情は、次の「いつ帰るのか」という質問に対する
“tomorrow.”で決定的になった。
明日帰るものは帰るのだし、
どうしてだと訊かれても、入稿がせまっているから、
と説明して分かってもらえるはずもない。
もう明日帰らないことにしようかな。。。と投げやりな気持ちになった。

見かねた老夫婦に助けていただいて税関を出たら、
大学時代の友達が待っていた。

もちろん偶然ではなくて、
ロンドンに留学していることを知っていたので
出発前に連絡していたのだけれど
空港まで来てくれるとは聞いていなかった。

空港からロンドン市内までの交通手段もはっきりわからないままで、
一難去ってまた一難を覚悟していたので、
友達は神様みたいに見えた。

ホテルの部屋までついてきてくれて、
5分置きに鳴る電話とアポの時間をころころ変えてくる取材相手に
いい加減ムカついていたら、
ソファに座って「変わんないね」と笑っていた。


10年前のことだった。
先週、ロンドンで出迎えてくれたこの友だちと新宿で会った。
昼ごはんを食べながら
あの時めちゃくちゃ有難かった、と言ったら、
ほぼ何も憶えていなかった。
ほんとになんにも? と試しに訊いてみたら
「あたしがロンドンに留学してたことは憶えてる」
と、衝撃の答えが戻った。

いろんな意味でショックを受けていたら、
「でも帰国したとき成田まで迎えに来てくれたの嬉しかったよ」
と言われた。

ぜんぜん憶えていなかった。

しばらくのあいだお互いにびっくりしたあとに、
やってもらったことだけ憶えてるっていう
パターンで良かったね、と
言い合った。



ロンドン行きが決まった時に思い浮んだひとつが
パディントン駅に行ってみたい、ということだった。
『くまのパディントン』のなかで、ブラウンさん一家が
パディントンを見つけたのがパディントン駅だった。

仕事が終わり、友達とも別れたあとに
ひとりで散歩してパディントン駅を探した。
帰りはちゃんとパディントン駅からエクスプレスに乗って空港へ行った。

ブラウンさん一家に見つけてもらった時のパディントンの気持ちが、
友達のおかげでわかったような気がして、
ペーパーバッグの『A Bear Called Paddington』がほしくて空港の本屋さんに行ったけれど
この英語力では棚を探し当てることすらできなかった。


『くまのパディントン』 マイケル・ボンド著/松岡享子訳 (福音館書店)



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