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一冊の周辺 ― 『ももこの話』

2014年06月03日

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実家に行くとたまにМさんが遊びに来ている。

Мさんは亡父の中学校時代の同級生で、
今年でたぶん69歳になる。

実家にいたころ、年の暮れにかならずかかってくる電話があった。
自分の名前も呼びたい相手の名前も言わず、
受話器の向こうからいきなり
「いるー?」
と聞こえてくる変な電話で、それをかけてくるのがМさんだった。

電話を受けると父はいそいそと出かけていった。
それがМさんと父の忘年会だった。

父が亡くなったとき、家族のあとに
最初に父と対面したのはМさんだった。

お坊さんも呼ばずに実家で開いた追悼会で、
Мさんは司会を引き受けてくれて、
“別れの言葉”のようなコーナーを自分で設けて
父とМさんが二十歳くらいだったときのエピソードを涙声で話してくれた。
CDで流していたBGMの、
「Let It Be」のサビが
Мさんの話と重なった。

Мさんは会が終わったあとも残ってくれて、
夫と義弟(どちらもまだ彼氏だった)を自分の前に座らせて
俺が見てるからな、と脅していた。

墓石に彫った字は、性格のわりに美しい字を書くМさんに書いてもらって、
海に散骨したときも家族3人のほかにМさんだけがいた。

父が逝って、Мさんは煙草をやめた。

長生きしたいから、ということでもないみたいだった。

もしかしたらМさんは、気持ちの区切りがほしかったんじゃないかと思う。

くらべるものではないかもしれないけれど、
夫を亡くした妻や、父を亡くした娘にくらべて、
友達を亡くしたおじさんの悲しみは、
心のなかに置き場所を見つけることがたぶん難しいものだった。
それよりつらいことも、それよりさみしいことも、
ほかにたくさんあるだろうけれど
だからといって簡単に耐えられるというものでもない。

自分の人生からひとりの友達が去った事実を
Мさんが受けとめたり、いつか慣れていったりするために、
「煙草をやめる」という区切りが必要だったんじゃないかと思っている。


さくらももこさんの『あの頃』『まる子だった』『ももこの話』と続くエッセイシリーズの
『ももこの話』のなかに「おとうさんのタバコ」という一編がある。

  ヒロシはハイライトを吸っていた。
  いつも彼のそばには必ずハイライトの水色の箱がおいてあり、
  ハイライトの水色は私にとっておとうさんの色だった。

こんなにも嫌煙ブームが広がるなかで
なんだかんだと私は煙草を吸う人が好きだなと思う。
単純に好みというのもあるけれど、
煙草の周辺にあるいろんな行動を見るたびに
そういうもので紛らわすしかないのかもしれない何かのことを
考えるからだと思う。

『ももこの話』 さくらももこ (集英社文庫)



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