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一冊の周辺 ― 『神の火』

2014年02月12日

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すべてにおいて気が長い、とは言えないし、
あきらめも悪いほうではない。と思う。

ただ、人との付き合いはいつも長い。

まだ歩けない頃に地元の公園で会った幼なじみとは今でも友達で、
中学校の仲間に「ひさしぶりだね」と言ったことはあんまりなく、
高校時代の親友から一月も音沙汰がないと生きてるかな…とそわそわし、
30代半ばのおっさんになった夫のことは10代の頃から知っている。

そして、会社のボスたちふたりには、
気づけば12年お世話になっていて、
社外の恩人たちとのお付き合いも同じく12年を超える。

人付き合いで会社にいるわけじゃないけれど、
人付き合いの面も多分にある。

要は、長く付き合わないと見えてこない相手のかっこよさを、
強さや弱さを、それゆえの魅力を、
知らないで済ますことができないんだと思う。

そういうわけで、この人生で何かときっぱり決別した覚えがない。

住む場所でもはたらく場所でも
“人間関係を一掃”というやつを、
感覚として知らない。


『神の火』という壮大なサスペンスを何度も読み返すのは、
主人公がそれまでの人生に決別するくだりを読みたいからだと思う。

十三の中華食堂で、もう来られないと思うから、と店主に告げて
最後のレバニラ炒めを食べて最後のウォッカを飲み、
数冊の本と一着のスーツを残して持ち物をごみ袋に詰め、
会社の席の窓際にあるサボテンに「じゃ…」と挨拶して去るその際に、
「君はなんだかたんぽぽの綿毛みたいやった」と言われる──

こんな思いは絶対にできない、と思いながら
ラストシーンに向かうその悲しい心模様を追いたいから
とっくに結末を知っている物語を
何度も読むのだと思う。

『神の火』 高村薫 著 (新潮文庫)



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