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撫子 05

2014年11月25日

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Asa.s






一冊の周辺 ― 『南の島の星の砂』

2014年11月25日

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ある年の夏前に
飲んでいた席で「沖縄行きたくない?」と誰かが言って
本当に行くつもりで予定を空けておいたのが
Eと私のふたりだった。

さかのぼって数年前、大学に入学して初めて学校に行った日、
お昼を食べようと思って食堂の列に並んでいたら
前にいたコテコテのギャルが
誰かとしゃべりながら前を向いたまま
ほいっとお盆を渡してくれた。

一瞬ためらったら
ちらっと振り向いて
「ん」
と言った。

受け取れ、ということなのだろうと思って、いただいた。
「ありがと……ございます」

それがひとつ年下のEとの出会いだった。

4年間を一緒に過ごして
みんなで飲んだり旅行に行ったり誰かの家に寝泊まりしたりして
どんな集まりのときも一緒だったけれど
浮かれた恋愛以外の話をした覚えがない。

ふたりでじっくり語ったりしたことは
ほとんどなかった。

沖縄の話になったのは
卒業後にひさしぶりに集まった飲み会だった。

「行ける?」

とEから電話が来て、そのぶっきらぼうな「行ける?」のなかに
自分と二人きりみたいだけどいいのか、という
戸惑いがあるのがわかったし
こちらが思っていることもだいたい同じようなものだった。

那覇空港について、レンタカーを借りて乗り込んだ。
助手席で偉そうにしているものかと思ったら、
いまさら「運転まかせちゃってごめんね」とか言うので困った。

膝に広げているガイドブックを見ると
信じられない数の付箋が貼ってあって、
おまけにそれぞれに一言メモみたいなものが書いてあった。

ホテルの部屋でトランクを開けると
浮き輪やら何種類もの水着やサンダルやら雑誌やら
いろいろなものがたくさん出てきた。

準備といえば、美味しいお店をいくつか人に聞いてきただけの私は
呆気にとられた。

携帯のアラームを平日どおりの時間に
セットしたままだったのを忘れて寝て、
起きたら8時を過ぎていた。
置いておいたはずの携帯は枕元になかった。
彼女はいない。

探して適当にドアを開けたら、

シャワールームの鏡の前で
髪にドライヤーをかけながら
勢いよく怒ってきた。


ちょっと信じられないなんであれだけ
アラーム鳴ってんのに寝てられんの?
呼んでもたたいても起きないしさぁ、
スヌーズの消し方わかんなくてうるさいし
トイレでもシャワーでもこの携帯持って
いちいち消してたんだよ。もー……
レッツゴーじゃないよ。


最後のはなんだ?

と思ったら、そのときアラームに使っていたのが
ラップ調にアレンジされた「天国と地獄」で、
「Let's go!」という変なかけ声からはじまった。

それ流れるたびに消してくれてたのか、と思って笑ってしまった。

海まで車で出かけて、潜ったらコンタクトレンズに傷が入った。
スペアはホテルに戻らないとないので
片目で運転するしかないかなと思っていたら
危ないじゃんあたし運転しようか、
と言ってきた。

大学時代に小さな事故を起こしてから、
ハンドル握るのが怖くなったことを知っていたので迷ったけれど
任せるしかない。

パーキングで練習させろと言って、
わーとかきゃーとかねぇそっち見ててねとか
ひたすら不安そうにして、
10分後には国道の右車線を走りながら
「ちょっとー前のクルマ遅いんだけど」
と言っていた。

カフェでゴーヤジュースを飲みながら
改めてその付箋だらけのガイドブックを眺めていたら、
ちょっと恥ずかしそうに言ってきた。

だって、なんかずっと楽しみでさ、
その本なんて一カ月も前に買っちゃたよ。

数年後に呼ばれた結婚パーティーで
南の島のチャペルで家族で挙げた式のDVDが流れた。
椰子の木の前で笑うウェディングドレス姿が可愛かった。

沖縄で、しょうもない連れを相手に
楽しそうだったEを思い出して、目の前がぼやけた。
ぼやけた景色の向こうで目が合った。
パーティーだからただ楽しく騒ぐつもりだったはずの花嫁が
いきなり泣き顏になったのが見えた。


沖縄のことはこの人の歌で知った。
歌詞にも、雑誌や本で語られる内容にも、
島の運命に対する怒りと哀しみがにじむ。

だから行ってみたかった、というのもあった。

どこか神妙な気持ちで訪れて
「ポロメリア」の歌詞を思い出しながら見ていた風景に
楽しかった記憶がきちんと重なるのは
短い旅行のためにたくさんの準備を重ねるようなEと
一緒に行ったからだったと思っている。


『南の島の星の砂』 Cocco (河出書房新社)

撫子 04

2014年11月17日

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本紙校正着!

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章扉。


Asa.s



撫子 03

2014年11月12日

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第3章
第2話 「故郷」

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第4話 「センス・オブ・ワンダー」

Asa.s






撫子 02

2014年11月12日

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表紙・背。


Asa.s

撫子 01

2014年11月11日

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第2章
第1話 「幸せを見つめる学校」

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第4話 「ラブレターと道標」


Asa.s




一冊の周辺 ― 『冷静と情熱のあいだ ―Rosso』

2014年11月11日

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ハワイ、グアム、サイパン……と
これまでの海外旅行先を並べると
あんまりなリゾート感だ。。。と思う。
ただ、実際のところ、休暇というのは
海で泳ぐのと浜辺で昼寝するのをくりかえすこと、
と思っているふしもあって、
遊びで都会というか都市に行ったことはあんまりない。

都市はやることのある人のための場所だと
思っていて、だから仕事で行くほうがしっくりくる気がする。

仕事を始めたころ、上海に連れていってもらって、
4回に分けて合計1カ月くらい滞在した。

毎朝ホテルから編集部のあった事務所に通勤して
同じメンバーに会って原稿を書いたり誌面を作ったりした。
事務所の入ったビルの1階にあった食堂に
みんなで降りてお昼を食べて、
夜はいろんなレストランで食事した。

東京にいるときと似たような生活だったので、
自分なりに日常や習慣が生まれた。
だから上海という街に感じる気持ちはほかの場所へのそれと少し違う。

3度目に行ったとき、
自社メンバーが揃って帰国して
上海にひとり残された。
4日くらいの短い期間だったけれど
あいだに週末を挟んでいた。

仲良くなった現地メンバーは
家族や友だちと過ごしているのだろうから
遊んで、とお願いするのも悪いかなと思った。

それで、郊外の町に出かけてみることにした。

ホテルの下に停まっているタクシーに乗って
ターミナル駅まで行った。
行きたかった西塘という町に向かうバスがあったのでそれに乗った。

西塘は運河のある水辺の町で、
民家も商店も飲食店もみんな河に面して並んでいた。
お茶を飲んだりおみやげを買ったりして、
夕景の時間まで待って
水面に映る夕日を観た。

帰ろうかなと思って、そこで初めて
どうやって帰ればいいんだろうと思った。

あとで考えると、乗ってきたバスは
新宿とかから出ているシャトルバスのようなもので
戻るバスがあるのかわからない。
バス停もタクシー乗り場も見当たらなかった。

仮にタクシーをつかまえられたとしても
ホテルの名前を正しく発音できる自信もなかった。

困って、編集部の電話番号を書いたメモを取り出した。

誰か出てくれるとしたらいつも受付に座っている女の人で
私の名前は知らないはずだった。
電話口に呼んでもらうために
上海在住の日本人スタッフの名前の発音を練習してみて、
次に中国人スタッフの曾さんや戴さんや王さんや徐さんの
名前のあとにつける「小姐」や「先生」の発音を練習した。

私の名前で取り次いでもらえなかったときのために
このとき東京にいた上司ふたりの名前も練習したけれど
“…の部下です”と伝えるには何と言ったらいいのかわからなかった。

それだけ準備してかけた電話に、誰も出なかった。

仮に誰かが電話口に出てきてくれたところで
何をしてもらおうと思っていたのかいまでもわからないけれど、
知っている人の声が聞きたかった。

異国の街の、いつもアウェー感を抱いて仕事をしていた上海の編集部が
初めてホームに見えた。
あそこに帰りたかった。

途方に暮れながら、いま大陸にいるんだなと思った。
帰りたい場所も大陸で、
地続きなのに帰り方がわからないことが不思議な気がした。


『冷静と情熱のあいだ』の「Rosso」は
人に「帰りたい場所」があることを伝えてくる。
物理的に帰りたいと思う場所は
つまり心の居場所として帰りたい場所で
故郷への慕情とは異なるせつなさのことを
全編をとおして語りかけてくる。


『冷静と情熱のあいだ ― Rosso』 江國香織 (角川文庫)


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