FC2ブログ

portfolio 2011-2014

2014年07月29日

IMG_1802

portfolio 2011-2014
ここ3年間に作らせていただいたものを
HP上でご紹介するために新しいページを作ってみています。
coming soon......

一冊の周辺 ― 『くまのパディントン』

2014年07月22日

IMG_2004

ヨーロッパに一度だけ行ったことがあって、
それは1泊3日のロンドン出張だった。

何人ものOBの物語をもとにした会社案内を作っていた時で、
打ち合わせの席でクライアント側のトップから
「ひとりロンドンにいるんです」と聞いて、
「へぇぇ」と思っていたら
メンバーのひとりが私を見て「ねぇ行ってくれば?」と言った。

それで、3日後に
ロンドンに向かう飛行機に乗っていた。
私英語しゃべれませんよ、という忠告(?)は、無視された。

ヒースロー空港の税関で、
なんとかのひとつ覚えみたいな「sightseeing」が言いたくなかった。
実際に仕事だったのだから仕事だと思われたい気持ちもあったし、
でも仕事の場合なんといえばいいのか覚えてきていなくて
“work…”とつぶやいたら、
少しだけ「怪しいな」という顔をされた。
疑いの表情は、次の「いつ帰るのか」という質問に対する
“tomorrow.”で決定的になった。
明日帰るものは帰るのだし、
どうしてだと訊かれても、入稿がせまっているから、
と説明して分かってもらえるはずもない。
もう明日帰らないことにしようかな。。。と投げやりな気持ちになった。

見かねた老夫婦に助けていただいて税関を出たら、
大学時代の友達が待っていた。

もちろん偶然ではなくて、
ロンドンに留学していることを知っていたので
出発前に連絡していたのだけれど
空港まで来てくれるとは聞いていなかった。

空港からロンドン市内までの交通手段もはっきりわからないままで、
一難去ってまた一難を覚悟していたので、
友達は神様みたいに見えた。

ホテルの部屋までついてきてくれて、
5分置きに鳴る電話とアポの時間をころころ変えてくる取材相手に
いい加減ムカついていたら、
ソファに座って「変わんないね」と笑っていた。


10年前のことだった。
先週、ロンドンで出迎えてくれたこの友だちと新宿で会った。
昼ごはんを食べながら
あの時めちゃくちゃ有難かった、と言ったら、
ほぼ何も憶えていなかった。
ほんとになんにも? と試しに訊いてみたら
「あたしがロンドンに留学してたことは憶えてる」
と、衝撃の答えが戻った。

いろんな意味でショックを受けていたら、
「でも帰国したとき成田まで迎えに来てくれたの嬉しかったよ」
と言われた。

ぜんぜん憶えていなかった。

しばらくのあいだお互いにびっくりしたあとに、
やってもらったことだけ憶えてるっていう
パターンで良かったね、と
言い合った。



ロンドン行きが決まった時に思い浮んだひとつが
パディントン駅に行ってみたい、ということだった。
『くまのパディントン』のなかで、ブラウンさん一家が
パディントンを見つけたのがパディントン駅だった。

仕事が終わり、友達とも別れたあとに
ひとりで散歩してパディントン駅を探した。
帰りはちゃんとパディントン駅からエクスプレスに乗って空港へ行った。

ブラウンさん一家に見つけてもらった時のパディントンの気持ちが、
友達のおかげでわかったような気がして、
ペーパーバッグの『A Bear Called Paddington』がほしくて空港の本屋さんに行ったけれど
この英語力では棚を探し当てることすらできなかった。


『くまのパディントン』 マイケル・ボンド著/松岡享子訳 (福音館書店)

一冊の周辺 ― 『800 TWO LAP RUNNERS』

2014年07月09日

IMG_0913

ある時期、くりかえし見ていた夢があった。

何度も見る夢ありますか、と
仕事場で飲んでいたときかなにかに訊いたら、
「大学の合格発表の掲示板に自分の番号がない夢」
と返された。

そんな夢は見たことがなかった。
そこに自分からも他人からも期待をかけられたことがなかった。…残念ながら。

くりかえし見たのは、「マラソン大会で1位になれない夢」だった。

高校時代のことで、そのとき陸上部にいた。
女子の部員は4人だけで、
そのうち中距離走と長距離走をやっていたのは私だけだった。
隣にあった姉妹校はスポーツの古豪で、
そのメンバーに入れてもらっていつも走っていた。

だから、1位以外に選択肢はなかった。
自信はあるようでなかったり、ないようであったりした。

クラスで仲の良かった女子バスケ部のキャプテンは怖かったし、
短距離をやっている友達のうちふたりは長距離も苦手ではなかった。
剣道部の2年生に速い人がいるらしい…といういらない情報も入ってきた。

そういうわけで、マラソン大会の2カ月くらいまえから、
ほぼ毎日、1位になれない夢をみた。
順位は2位だったり2桁台だったりいろいろだったけれど、
いつもきまってプールのなかを進むように手足が重かった。
目覚めていつもほっとした。

自信がなければ、こんな夢は見なかっただろうと思う。
99%確約されているはずの結果を、実現すべき日に実現できるか。
プレッシャーってこれか…と思った。

大会当日、ゴールまでの最後の直線に入る角を曲がったら
誰かが叫ぶ声が聞こえた。
陸上部を引退した3年生の先輩が、
ゴールテープの横で私の名前を叫んでいた。

ほかに観客はいない。
校内の記録会みたいなものでお祭りではないし、
観ているのはレースを先に終えた男子くらいのものだった。
それに、そもそも3年生は授業中のはずだった。

タイムをカウントする先生の声のほかは静かな校内に、
叫ぶ先輩の声だけが響いていた。

校舎の上のほうの窓がいくつか開いたのは、
ゴールシーンを観るためではなくて、
誰だ叫んでるのは、ということだったと思う。

ちょっ…先輩。。。と思いながらゴールして、
もうあの夢は見なくていいんだな、と思った。


『800 TWO LAP RUNNERS』は、先輩が貸してくれた本だった。
種目を選ぶときに「800をやれ」と言ってくれたのも先輩で、
800メートル走という競技のきつさも難しさも面白さも、
その先輩とこの本から教わった。

800を走るふたりのランナーと、
それぞれの恋人との恋愛模様が描かれていて、
レースの最中とSEXの最中の描写が鮮烈だった。

高校時代、先輩には彼女がいて私にも彼氏がいて、
先輩はずっとただの先輩だったけれど、
この本を読んで、本のなかで展開されるレースと恋に触れると、
800メートルという距離と、
マラソン大会と、もう見ることのないあの夢と、
先輩の顔を思い出す。


『800 TWO LAP RUNNERS』 川島 誠 (角川文庫)


最新記事