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Bistroひつじや

2014年06月26日

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サトルさんと。

一冊の周辺 ― 『村上ラヂオ』

2014年06月18日

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あれは夢だったのかな…という変な感じで記憶に残っているうなぎ屋さんがある。

確かここで仕事を始めて最初の冬に
連れていってもらったはずで、
その日は雪が降っていた。

神社に参拝した帰り道にお店があって、
うなぎ食っていこうか、という感じで寄った。
というのはおそらく記憶違いで、
はじめから「神社→うなぎ屋さん」のコースは決まっていたのだと思う。

いずれにしても、これからどこに行くのかとかどんな予定だとか
そういうことを知らないまま
ただあとをついていく程度に幼かった。
道もわからず視界も狭く、雪の足跡をひたすら追いかけた。

うなぎ屋さんには離れのような二階建てがあって、
二階のお座敷の、窓のそばに座った。
ほかにお客さんはいなかった。

うな重にたどりつくまでの料理を、ぽつぽつ話をしながら食べた。
新しい料理が届くたびに、
一階の引き戸を開け閉めする音と、
階段をのぼる静かな足音が聞こえた。
うざくも肝焼きもうなぎの茶わん蒸しもみんなおいしかった。
雪は降りやまなかった。

夏前に入社して、会ってから1年足らず。
食事しながら緊張するほど馴染んでいなくはなかったけれど、
身内だけだからとくつろぐほど慣れてはいなかった。

結果、距離を計りかねていた。

まるで親戚の家みたいなお座敷で、
前に座るふたりはくつろいでいるように見えて、
家族か何かかと錯覚するようなシチュエーションと、
降りやまない雪に閉じ込められてる感が、
余計に距離感を曖昧にした。

話の内容はもちろん憶えていないけれど、
ただ、仕事の話はしなかった。
テレビとか家族とか昔話とか、そういうどうでもいいことを話した。

仕事をするために仲間に入れてもらって、
仕事でつながっている人たちと、
仕事と関係のない話をしながらうなぎを食べた。

今、いくつかある自分の居場所のなかで、
ここにいるときは安心していて良いのだと思い込んでいる。
そう思うようになった境目が、たぶんこの日だった。


うなぎはどこか特別な食べ物だと思う、
と書かれた「うなぎ」というエッセイを読むと、
人生に味方が増えた(ような気がしている)あの日をなんとなく思い出す。

夢だったのかも……と思ってためしに数年前に訊いてみたら
うなぎ屋さんはちゃんと実在していた。
しかもさっき食べログページをのぞいたら
「TOP5000」のマークがついていて、
記憶は夢のままにしておいてもよかったかも…と思ったり思わなかったりした。


『村上ラヂオ』 村上春樹 (新潮文庫)

一冊の周辺 ― 『ももこの話』

2014年06月03日

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実家に行くとたまにМさんが遊びに来ている。

Мさんは亡父の中学校時代の同級生で、
今年でたぶん69歳になる。

実家にいたころ、年の暮れにかならずかかってくる電話があった。
自分の名前も呼びたい相手の名前も言わず、
受話器の向こうからいきなり
「いるー?」
と聞こえてくる変な電話で、それをかけてくるのがМさんだった。

電話を受けると父はいそいそと出かけていった。
それがМさんと父の忘年会だった。

父が亡くなったとき、家族のあとに
最初に父と対面したのはМさんだった。

お坊さんも呼ばずに実家で開いた追悼会で、
Мさんは司会を引き受けてくれて、
“別れの言葉”のようなコーナーを自分で設けて
父とМさんが二十歳くらいだったときのエピソードを涙声で話してくれた。
CDで流していたBGMの、
「Let It Be」のサビが
Мさんの話と重なった。

Мさんは会が終わったあとも残ってくれて、
夫と義弟(どちらもまだ彼氏だった)を自分の前に座らせて
俺が見てるからな、と脅していた。

墓石に彫った字は、性格のわりに美しい字を書くМさんに書いてもらって、
海に散骨したときも家族3人のほかにМさんだけがいた。

父が逝って、Мさんは煙草をやめた。

長生きしたいから、ということでもないみたいだった。

もしかしたらМさんは、気持ちの区切りがほしかったんじゃないかと思う。

くらべるものではないかもしれないけれど、
夫を亡くした妻や、父を亡くした娘にくらべて、
友達を亡くしたおじさんの悲しみは、
心のなかに置き場所を見つけることがたぶん難しいものだった。
それよりつらいことも、それよりさみしいことも、
ほかにたくさんあるだろうけれど
だからといって簡単に耐えられるというものでもない。

自分の人生からひとりの友達が去った事実を
Мさんが受けとめたり、いつか慣れていったりするために、
「煙草をやめる」という区切りが必要だったんじゃないかと思っている。


さくらももこさんの『あの頃』『まる子だった』『ももこの話』と続くエッセイシリーズの
『ももこの話』のなかに「おとうさんのタバコ」という一編がある。

  ヒロシはハイライトを吸っていた。
  いつも彼のそばには必ずハイライトの水色の箱がおいてあり、
  ハイライトの水色は私にとっておとうさんの色だった。

こんなにも嫌煙ブームが広がるなかで
なんだかんだと私は煙草を吸う人が好きだなと思う。
単純に好みというのもあるけれど、
煙草の周辺にあるいろんな行動を見るたびに
そういうもので紛らわすしかないのかもしれない何かのことを
考えるからだと思う。

『ももこの話』 さくらももこ (集英社文庫)


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