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千手観音

2014年04月14日

sunset

風が強く吹いて、
某国民的アイドルグループのコンサートが中止になったある日曜日、
初めて大船駅に降り立った。

「今週末、鎌倉にライブを見に行くんです」
会社でちょっと得意げに宣言してから
よくよく会場を確認してみると、
「鎌倉芸術館」の所在地は大船であった。

フュージョン界の大御所ギタリスト、
リー・リトナーのコンサート。
この日のステージに登場することになっていた
ドラムの神保彰を見てみたくて、出かけたのだった。

神保彰といえば、
日本のフュージョンバンドの草分け
カシオペアのオリジナルメンバーで、
2007年の『ニューズウィーク』誌で
「世界で尊敬される日本人100選」にも選ばれた
稀代の名ドラマーである。

バンド編成におけるステージ上のドラムの位置付けは、
ボーカル(あるいはギタリスト)の背後に、
客席と相対する形で配置されるのが一般的だが、
この日はステージのセットを見てまずびっくり。
間もなく神保彰が腰をおろすであろうドラムセットが、
舞台の上手に横向きで配置されていた。

奇しくもこの日の私の座席は、2階客席の右側。
ドラムセットの全てを見通すことができる
ポジションであった。

ライブの贅沢は、
生の音を浴びることだけじゃなくて、
ステージ上で演奏するミュージシャンたちが、
足や首でリズムを取る様子を見ながら、
一緒になって思うまま拍を刻むことにあると思う。

ドラムスティックを持った神保彰の腕と、
黒っぽい細身のジーンズに包まれた脚、
それから白いシャツのなかの背骨が刻む細かなリズムを
凝視するという贅沢。

さらにその高揚感を
引き上げたのは、照明を浴びたドラムセットだった。
初めはオレンジ、それから赤などなど
(…大分経ったので他を忘れてしまった…)、
シーンごとに1色ずつの照明で染められるシンバルの美しさ。

とくにオレンジを浴びたそれは、
「信仰」「崇拝」「神様…」という単語が
脳裏にちらつくほど。


中高年層が多勢を占める客席で、
 
フュージョンライブに来たれ若者!
人間はひかりものに弱いね!

という二言をぐっと飲み込んで、
すっかり風が止んだ道を、
大船駅へと戻ったのだった。

sora

一冊の周辺 ― 『セントラル・パーク事件』

2014年04月04日

IMG_3183

昨年だったか一昨年だったかの夏前に
妙に切実にひとりになりたいと思っていた。

細かいことは忘れた気もするけれど、
まぁ、いろんなことがあって
毎日の会話の数がなんとなく多過ぎた。

働いている街の駅を降りても、
住んでいる町の駅を降りても(暇な時期だったらしく毎日迎えの車が停まっていた)、
常に“待たれてる感”があった。

仕事が忙しい時に南の島を空想することはよくあるけれど
それは単に「さむいのやだ」「のんびりしたい」ということだし、
もともとひとりの時間を大切に思うほうでもない。

だから、それは、それなりに非日常の状況だったのだと思う。

たまに移動時間や寝る前に
iPhoneで「秘境」と入力して画像検索して出てきた写真を眺めたりした。
知っている生きもののいない場所が、魅力的に見えていた。

そういう時に、1泊で離島へ行く仕事があった。
ひとりでやらせてもらっている仕事だった。
時間刻みのスケジュールが送られてきたので
アテンド付きの2日間を覚悟した。
ぜいたくに思うべきだけれど、そういう時期だったので重かった。

そうしたら、
「送ったスケジュールはあくまで案なので好きに過ごしてください」
と言われた。
打ち合わせと夜の食事以外はフリーということだった。

離島でひとり。

夢にまでみた、というか、画像検索してまで妄想した状況だった。

ひとりで飛行機に乗り、
空港に降りてもひとりだった。
初めて訪れた中核都市のターミナル駅のビルで昼ごはんを食べて、
知らない名前の在来線に乗って港に着き、
そこから船に乗った。

広い露天風呂にひとりで入って、
豪華な客室をもてあました。

翌朝、ロープウェイに乗って山に登った。
平日の朝にロープウェイに乗る人は珍しくて、
前後10台に誰もいなかった。
落ちてもしばらく気づかれないな……と思うと、さみしくて自由だった。

その出張の時に持っていたのが、
『セントラル・パーク事件』だった。

主人公のビンゴは、嬉々として人の人生を背負おうとしていた。
ハンサムという名前の相方のことも、
保険金目当てに誘拐した老紳士のことも、殺人犯のことも。
誰かの人生に積極的にかかわり、
かかわるということはその一端を背負うということであると、
なんの気負いもなく理解し、その責任を軽々と引き受けているように見えた。

また船に乗り、飛行機に乗って帰ってきたら、
ひとりに焦がれる気持ちは薄れていた。
離島のおかげだったのか、ビンゴのおかげだったのかわからないけれど。


『セントラル・パーク事件』 クレイグ・ライス (ハヤカワ・ミステリ文庫)


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