2010年07月13日
四川料理がいま、東京で面白い。
日本で「四川料理」といえば、なんと言っても陳建民さんであり、
いまも脈々とお弟子さんたちがその精神を伝えている。
もちろん、これは日本における“四川料理文化”の一つと言っていいだろう。
でも、良し悪しに関係なく、
日本に伝わり、愛される過程で、
「日本人の好みに近づけながら」という配慮が入っていた。
ところが、ここ数年、日本人の舌に迎合しない本場の四川料理が、
東京で味わえるようになってきた。
私自身、とくに衝撃を覚えた店は、「趙楊」と「飄香」の2つである。
前者は本場・成都の名店で料理長を務めた四川人シェフ
後者は四川で1年半料理修業を積んだ日本人シェフ。
それだけに、花椒や豆板醤をはじめとする調味料の質、
それらの組み合わせに徹底してこだわった奥深い料理が堪能できた。
そして、さらなる驚きだったのは、先日みんなで行った「龍藤」である。
ここは、あくまでも私の予想だが、
「四川発⇒北京経由」で、東京にやってきたのではないだろうか。
もともと私の四川料理の原点は、北京の「四川飯店」にある。
いまから25年前に初めて訪れ、以後、北京へ行くたびに寄っている。
周恩来じきじきの提案で設立された伝統あるレストランで、
あの小平が愛してやまなかったことで知られる。
いまでこそ高級会員制クラブ「中国北京会」のレストランとなっているが、
かつては平屋建築で、一般中国人用とVIP向けの二棟に分けられ、
一般用では、調理場の前にある大きな黒板に書かれた料理をみて注文する
非常に大衆的なレストランであった。
後(2002年)に、本場・成都の食文化を現地取材したが、
すべてにおいて「マイルド」が主流となっており、
拍子抜けした経験がある。
(おそらく若者向けに迎合していった結果であろう)
話は横道にそれたが、何を言いたいかというと、
少なくとも私の経験では、
本物の四川料理を味わえる地は、実は北京なのではないか、ということである。
北京にはさまざまな地方から人々がやってくる。
その人たちの郷里の料理は、北京で再現され、
流行に左右されることなく、いまも受け継がれている。
そして、さらに好ましいことは、
その「本質」を失うことなく、
良い意味での「洗練さ」が加えられている、ということである。
もちろん、四川料理が下世話なものだとは思っていないが、
中華料理の中では圧倒的にパワフルな面が強い。
そこに、ちょうど良い程度の「上品さ」と「洗練さ」が加わった。
──それが、「龍藤」の料理だったのである。
この店、まだ認知度が低いせいか、いつ行っても空いている。
あくまでも「予約が取れないほど」にならない程度に、
この店の、そして本物の四川料理の実力を、
多くの日本人に知ってもらいたいものである。
Taka